News & Letters/305
「密漁」取締りについて
人権救済申立て
平成24年9月4日
日弁連人権擁護委員会殿
申立人高知県安芸郡東洋町野根大字丙2416番地5
野根漁業協同組合 組合員 洲崎 貞二
(電話)
侵害者 高知市丸ノ内1丁目2番20号
高知県 代表 知事尾崎正直
【申立ての趣旨】
1、戦後、長年にわたり特に高知県東部地区(室戸市、東洋町など)では、漁業法違反、漁業調整規則違反という事で地元漁師が貝類の採取をする行為のうち特定の行為を「密漁」として厳しい取り締まりが行われてきましたが、実はこの取り締まりの根拠となる法令・規則が存在していませんでした。
2、県庁の司法警察員は、明確な取り締まりの法規がないのに、ただ知事が許可していない等という事で次々と貧しい漁民を逮捕し、その度に漁獲物はもとより、漁具をも没収し、その上新聞に実名を発表して、刑罰を加えてきました。
3、私たち漁民は、何の法令違反で逮捕され拘留されているのかはっきりせず、そのようなはっきりしない手続きで刑罰を加えられることは憲法に違反し、はなはだしい人権侵害であると考えますので、貴委員会が詳しく調査をして関係当局に警告を発し、また明確な漁業規制の規則を作って公明正大な取り締まりを行うよう勧告を出していただきたい、こういうことでこの申し立てを行うものです。
4、本年8月16日に私は高知県司法警察員に高知県野根漁港で漁業法違反だという事で漁獲物や漁具類を没収され、これまで数回にわたって事情聴取をされています。
これまでにも過去数回同じような目に会い、現在執行猶予中でありますので、今回は収監され懲役刑を打たれる可能性があります。
【申し立て趣旨の理由】
一、漁業法第65条及び高知県漁業調整規則第7条では密漁を取り締まれない
1、高知県(他の府県もほぼ同様)が漁業法違反だというのは、漁業法第65条違反、高知県漁業調整規則第7条違反という事のようであります。
しかし、漁業法第65条は、知事が漁業について禁止したり許可制度を設けることが出来るという規定であって、知事の漁業規制に関する裁量権の付与についての規定であり、漁民や国民を直接規制するものではないと考えます。
したがって、この65条を根拠として漁民の行為について規制を加えたり直接罰条の規則を設けることはできないはずである。あくまでも知事や大臣が独自に作成する規則によって取り締まることが期待されるという趣旨であると考えられます。
2、漁業法第138条第六項の罰条は第65条の違反について新たに設けられたようですが、法として失当であり、これでもって直接漁民の行為を規制することはできな
いと考えます。第65条違反というのは知事がその権限をゆ越してみだりに規則を制定するなど職権乱用に及んだとかいう場合に該当するものと考えられます。
138条第六項は非常に奇怪であります。すなわち、
「第65条第一項の規定による禁止に違反して漁業を営み、又は同項の規定による許可を受けないで漁業を営んだ者」について刑罰を科すというのであるが、65条第一項には特定漁業や漁法について制禁する規定は存在していません。この65条第一項は、知事が漁業について禁制を設けることが許されるという権限付与の条項であり、これに基づいて権限を与えられた知事らが、独自に成規を定めそれによって漁業の仕法に制禁をかけることが出来るというものです。漁業調整規則がそれに当たるでしよう。
しかし、漁業調整規則で定めた制禁の規定または許可制に違反したからといってその規則の罰条を超えて元の法律に罰則を設けそれを適用するというのは余りにも無茶でしよう。調整規則の罰条では6カ月以下の罰条ですが漁業法での罰条では懲役3年以下となって厳しい。法律での違反行為の処罰はその法律で明確に規定された制禁条項に基づいてなすべきであり、規則上の違反はその規則の罰条を適用するべきであると考えます。
知事が調整規則を作るというのは義務規定ではないから、法令はその規則を既定のものとし前提として罰則を定めることはできないはずであります。
3、しかしまた、法第65条では、漁業取締等で規則を定めることが出来るとして、
水産動植物の採捕や漁具等について「制限又は禁止」の規則を定めてもよいし罰則を設けてもよいとされています。
そこで知事は、高知県漁業調整規則を定めていますが、その第7条で水産動植物の採捕やその漁法等につき知事の許可制度を定めました。しかし、この許可制度の規則は、法のいう「制限又は禁止」の規則ではないと考えます。法の定める規則は、水産動植物の、「採捕又は処理」、「販売又は所持」、「漁具又は漁船」、「漁業者の数又は資格」について直接に「制限又は禁止」する規定を設けるという謂いであって、許可する、許可しない、という知事の政策的な判断に任せるという趣旨ではないと考えます。
知事のその時その時の恣意による許可、不許可によって漁業規制をし、取り締まるというのでは近代的な法規としては意味をなさないと思います。
高知県漁業調整規則には、法で定められた漁民の漁業行為を特定しそれらを明確に制禁するという条項が存在しないのです。
4、高知県漁業調整規則の「第4章 罰則」(58条~61条)には第7条についての罰則規定はない。
無許可漁業についての罰条がないのに、刑罰を科すことがどうしてできるのでしょうか。
ただ、同規則の第15条に、「許可を受けた者」について許可条件の違反について禁止している条項があり、それに対する罰則規定(第58条)がある。しかし、それは許可を受けた者に限定され、その違反の内容も明示されていず、県が発行する「許可証」に「制限又は条件」、「厳守すべき事項」などとして掲示されているだけであります。
許可証の掲げるその「制限又は条件」等は公示されていないし、許可を受けていない大多数の漁民や国民には知ることは不可能であるから、特定の者にしか通用しない規則であり、許可証の発行を受けていない漁民全般には適用され得ないと思います。
5、無許可の漁業を禁制する規則が存在しない。
これを道路交通法などと比較すれば明らかです。道交法(64条)には無免許運転の明らかな禁止の規定があり、その他自動車を運転する上での種々の禁止や制限条項が明示されています。免許証や許可証の発行を受けた者にしか分からない制限や禁止では、無免許、無許可の者の行為を咎めることはできないと思います。
県の現行調整規則が許可制度であるとしても、許可条件や不許可条件、資格の明示もされていませんから、どうして罰せられるのか罰する者にしか分からないという状況です。
県下の漁民や国民は訳の分からない法令によって取り締まられ刑罰を加えられているという状況となっていると考えます。
6、高知県漁業調整規則は、その根幹において知事の恣意的な許可制度を広くみとめ
るだけで、制限や禁止される漁業等が何であるか明示されていないし、許可不許可の基準や資格についても明示されていません。
現行規則は近代的な法規としての体裁をとっていず、これを根拠として漁民の不法行為をあげつらい、処罰に及ぶことは許されないと考えます。
漁業法や水産資源保護法でも明確な制禁規定は存在せず、漁業調整規則でもそれが見当たらず、最後に許可証の付帯条件にしかそれが見えない。許可証の発行を受けていない国民にはさっぱり分からないというものです。
これでは、明確な制禁条項を故意に隠し、「違反」行為を野放しにしておいて、いたずらに漁民を捕縛して苦しめていると解釈されかねない。
高知県は、漁業法に基づく漁業に関する「制限と禁止」条項をもった正規の調整規則を改定するべきであり、それを掲げて漁民を指導すべきであろう。
二、結語 憲法第31条違反 知事の職権乱用
1、「密漁」についての如上の県行政の在り方は、憲法第31条に抵触し、法律の定めもなく国民に刑罰を科していることになり、憲法違反だと思います。
これは、戦後80年近くも、明確な法的根拠もなく知事や司法当局が処罰を繰り返してきた職権乱用行為であり、人間を「密漁」する行為ではないでしょうか。
このような前近代的なでたらめな取り締まりによってこれまで数多くの漁民が捕縛の恥を受け、新聞発表等社会的制裁の上、罰金や受刑の受難を被ってきました。
県はこれら被害について賠償する責務さえあると考えます。
従って、高知県漁業調整規則(全国共通と思われる)には憲法に抵触する重大な瑕疵があり、法規としての実質を欠き、これによっては漁民を罰することはできないから、これまでの高知県の司法警察員による「違反」漁民の逮捕・連行、拘留、任意同行等、そして、漁具類の押収はすべて法的根拠のない、ただの実力行使としての拉致、横奪であり、不法行為であると考えます。
本件漁具類の押収の際、県職員は、漁民に押収品について廃棄してもよいという同意書のようなものに署名させてきていますが、権柄づくで書くことを強要されたもので、漁民側は、刑罰を軽く、早く逃れようと思って仕方なくしたことで、誰も心から同意したものではありません。
2、さらに問題なのは、検察や裁判所であります。
明文による法的根拠もなしに、検察官がどうして県庁司法警察員の提起を受けて漁民を訴追してきたのか、また、裁判官も検察の起訴を受けてどうして有罪の判決を下してきたのか、全く合点がいきません。
知事らに対し漁業について制禁する規則の制定を認めるという趣旨の漁業法第65条違反でどうして漁民を逮捕したり刑罰を科したりできるでしょうか。
また調整規則第7条(知事の許可)違反だと言うが、この第7条には罰則規定が存在していません。罰則規定がないのにどうして人を罰することが出来るでしょうか。
これらのことは、法律家であり専門職である裁判官や検察官らがわからないはずはないと思います。
検察庁や裁判所も、日本の法令の明文規定によらず、捕縛された貧しい漁民に対して何らかの予断や偏見をもって事件を処理してきたのではないでしょうか。
司法警察職員はもとよりこのような裁判官や検察官らには刑法第194条(特別公務員職権乱用罪)が該当するのではないでしょうか。
三、申立人に係る現在の事件
申立人は、本年8月16日、酸素ボンベを背負って高知県東洋町野根の海岸近くの海中でながれこを5㎏ほど採集し、本拠としている野根漁港に入港したところ待ち受けていた高知県司法警察員によって漁獲物や漁具類一切を押収され、室戸署に出頭するように言い渡されました。県の司法警察員は、酸素ボンベを使うのは知事の許可が必要で、許可なしの漁業は漁業法違反であり、取り調べたうえ書類を検察庁に送るということです。
これまでにも申立人は数回同じように高知県司法警察員に捕まり、現在執行猶予中であります。
【添付書類】
添付書類1:潜水器漁業許可証
申立人は、許可されていない空気ボンベを背負って海中で貝類を採っていた、ということで捕まった。
申立人は、当然この許可証を発行されていず、許可証に掲げられている
制限事項については知らなかった。この許可証は、市民オンブズマンが県庁から貰って、申立人に渡してくれたものである。すなわち、許可証の
「6 制限又は条件」の
(1)漁具の規模及び数は、顔面マスク式潜水器、おこしのみ及び金突一式とする
の制限に違反するとされた。
添付書類2:押収品目録交付書
添付書類3:高知県漁業調整規則
添付書類4:漁業法関係抜粋
添付書類5:高知新聞(平成24年8月17日)の記事
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