News & Letters/406
行政の無法行為がいかにすさまじいか
この準備書面を見れば明らかだ。
都合の悪い法律は抹殺してよいという論理だ。
平成26年(行ウ)第13号一部事務組合無償譲渡処分取消及び損害賠償請求事件
原告 澤山保太郎外2名
被告 安芸広域市町村圏特別養護老人ホーム組合外1名
原告準備書面(1)
平成27年4月9日
原告 澤山保太郎
同 田原茂良
同 楠瀬立子
原告らは被告準備書面(1)について以下の通り弁論を準備する。
一、
今回の被告準備書面(1)の内容は安芸広域市町村圏特別養護老人ホーム組合(これを単に組合と呼ぶ)の監査委員が出した監査の結果の通知書(甲第3号証)と同じ内容、同レベルのものであり、原告らの訴状等のこれまでの主張を何ら揺るがすものではない。
被告準備書面(1)の主張の骨子は4頁下段から5頁上段に記載されている。
すなわち、本件建物・備品等については、前記(1)の(補足)に記載した被告組合を組
織する9市町村の議会の議決、これを受けた9市町村長による協議の成立、共同処理する事務及び規約の変更についての高知県知事の許可によって、平成26年3月31日限りで組合の行政財産としての用途が廃止されて普通財産になることから、被告組合は、これを前提として平成26年4月1日に本件無償譲渡を実行するべく本件無償譲渡契約を締結したものであって、本件無償譲渡の実行の前提として、本件建物・備品等の行政財産としての用途は廃止されているのである。
これを要約すると、
①構成団体である9市町村の議会の議決があった。
②9市町村長の協議が成立した。
③高知県知事の規約変更許可があった。
④これらにより行政財産としての用途が廃止され
⑤普通財産になった。
⑥①~⑤を前提として無償譲渡契約を締結した。 ということである。
問題は、①、②、③の手続きによって、④⑤の行政財産の用途廃止、普通財産化した、という経緯を述べるだけで、議会の議決や首長の協議などで行政財産の用途廃止が可能であるという法的根拠について、何も主張していない点である。不法行為の経過報告をしただけではその行為の正当性が担保されるということにはならないだろう。
二、
さすがにそれだけではまずい、何か法的根拠はないものかと感じてか、被告は、東京地裁の判例(平成4年12月3日判決)を持ち出して主張を補強しようとする。
地方自治法第237条2項の規定について解説するその判決の要旨は、普通地方公共団体が適正な対価によらずにその財産を譲渡などの処分に付する場合には、議会の審理と議決があれば必要かつ十分である、というものである。これが、被告の上記不法行為を適法にさせる法的根拠とでも言うものであろうか。
しかし、これは子供でもだまされない単純な法律の歪曲である。
地方自治法第237条の2項の条文を正視すれば、誰でもわかるであろう。
その条文は、
第238条の4第1項の規定の適用がある場合を除き、普通地方公共団体の財産は、条例又は議会の議決によるのでなければ、これを交換し、出資の目的とし、若しくは支払い手段としてし使用し、又は適正な大過なくしてこれを譲渡し、若しくは貸し付けてはならない。
と明記されている。すなわち、この地方自治法第237条2項の規定は、本件請求の趣旨の根本的な法的根拠である行政財産の処分についての制禁の規定(地方自治法第238条の4)の適用がある場合を除外しているのである。
換言すれば、東京地裁の解説する地方自治法第237条2項の議会云々の規定は行政財産を除外し、普通財産についての話であり、それなればその通りなのである。
以上の通り、上掲東京地裁判決は本件訴訟の争点には該当しないことは明らかである。
三、
行政財産の処分を制禁する地方自治法第238条の4及び同法238条の3の規定には歴史的意義がある。
組合の本件無償譲渡の行為は地方自治法第238条の4(及び同法238条の3)の規定に反するものであるが、被告は、この法律の規定をないがしろにしても良いという趣旨の主張(7頁中段)までする。すなわち、
平成21年11月26日の最高裁判決によりながら、被告は、この場合、改正条例の施行によって行政財産としての用途が廃止された保育所の建物、備品の処分が地方自治法第238条の4の規定の存在が保育所の行政財産としての用途を廃止する上での障害となるものではないことは自明の事柄である。
といい、さらに、地方自治法第238条の4の規定は同法244条の2の規定にいう「法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるもの」には該当しないのであって・・・
とまで極限する。被告は、自らの主張について明確な法的根拠がないので、都合の悪い法令の明文規定は無視しても良いという主張をしなければならない。
平成21年11月26日の最高裁判決については訴状で述べたとおりであって、地方自治法第238条の4の行政財産処分制禁の法律を判断の中に入れていない。
原告は法律を順守しろと主張し、被告は法律は遵守しなくても良い、自分の行為を禁止する法律は排除すると主張する。
しかし、行政財産をそれを管理する者らが自由にしても構わないということになれば、国家の根幹がゆるぐことになる。歴史学者の説では、かつて古代律令制度が崩壊し中世封建社会が生まれた契機は、公の国衙や国衙領が貴族や武士によって私物化されそれらの家産に転化することから始まったとされる。
まさに、明治維新は、そのような封建領主の家産と化した領地・領民制を解体し、田畑の私的所有を解禁するとともに、公と私の堺を峻別した。例えばこの裁判所が建っている高知城の城地は嘗ては山内家の殿様のものであったが、明治以降高知県の公地となったごとくである。今、高知城を県議会や知事の一存で誰か私人の所有に替えることができるであろうか。
地方自治法第238条の4の規定は、いかなる場合にも侵すことのできない近代社会の根本原則を定めたものであり、歴史の重みがかかっている。
これを無視してもよいとの被告の主張は何の根拠もないばかりか、公の施設についての歴史的意義を没却し、近代日本社会のよって立つ公私の分裂の原則を破壊することにつながるものであろう。
四、
さらに、被告は、行政財産を普通財産に転化する上での手続きについて苦しい弁解が続く。
一部事務組合の場合は・・・・財産の取得、管理、処分の手続きに関する条例や規則を制定していないのが通常であり、・・・・本件においては、被告組合の財産管理に関する条例や規則との関係が問題になる余地はない。(8頁中段)という。
本件のような重大な財産の処分についての手続きが何もなされず、その手続きを定めた規則も条例もない、それでも構わないというのである。
およそ公的機関においてその業務遂行について何もルールがないから、自分らが勝手にやるということが通用するであろうか。しかもその業務は内部の規律に関するものではなく、9市町村に渡る住民の福祉事業の受益権に関する事柄である。
一部事務組合には議会があり立法機関があるから、規則は必要に応じて策定されねばならないし、それは容易に議会で議決することができたはずだが、被告はそれをしなかった。
無論、行政財産をその稼働中に用途廃止し普通財産に転化して譲渡あるいは売却などの処分をするという規則は作ることはできない。室戸市や組合構成団体の市町村は言うに及ばず全国どこの地方自治体にも財産規則はあるが、その中に行政財産を処分するという条文は1条も存在しない。
そして、仮に議会の意思が決まり、所属首長の意思が整っても、それはあくまでも処分の意思決定であって、その意思を実行する事務遂行のデュープロセスが担保されねばならない。譲渡又は売却するにしてもその相手をどのように選定するかなど重要な手続きにおいて瑕疵があればその行政処分行為は無効となる場合もある。
まして、その手続きが全くなされず、手続の規則もないとなれば、身内の者に行政財産を無償譲渡したという意思決定が仮に許されたとしても、その処分手続の正当性を主張する根拠が何もないということになれば、話は違ってくる。
五、
被告はその手続きの重要な一環である無償譲渡契約について、
被告組合とむろと会との間の本件無償譲渡契約は、地方自治法第234条第1項にいう「売買、貸借、請負その他の契約」には該当しないのであって、随意契約の制限に関する同法施行令第167条の2の規定との関係は問題となり得ない。(10頁)
という。被告は、本件無償譲渡契約は地方自治体の契約について規定している地方自治法第234条第1項には該当していないという。では一体本件無償譲渡契約はいかなる法的根拠があるのであろうか。
日本は法治国家であり、行政の事務もすべて法令に基づいて行われなければならない。
全国の地方自治体の行政機関がする契約は毎年億兆単位の莫大な予算を伴っているが、それらはすべからく、地方自治法第234条第1項によらねばならず、外に何の法律も存在しない。それに依拠しないということは、被告は自らの行為が無法行為であることを宣言し、それがどうしたんだと開き直っているとしか思えない。
正気の沙汰ではない。
被告の本件行政財産の廃止は、稼働中に無償譲渡契約等手続が先行し、あくまで民間団体へ無償譲渡するための廃止処分であり、廃止、廃園されていた施設を無償譲渡の対象としたというものではない。
したがって、地方自治法第238条の4の規定がまともに該当するものである。
ちなみに、本件契約は一般競争入札などもしていないから、随意契約であり、随意契約について定める地方自治法施行令第167条の2の第1項の「その他の契約」に該当すると考えられるが、この規定には数百万円程度の金額の上限が設けられているから、億円単位の本件契約は当たらない。本件の場合は法令上随意契約はできないことを付言しておく。
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