高知新聞の特集「水平宣言100年」2について
全国水平社が1922年3月京都岡崎で結成されてから100年がたった。
私の母はそれより4年前1918年4月に生まれ2004年2月に死んだ。
死期が近づいたとき、母の遺言のような言葉を聞いた。「戦争と差別がなければ幸せな人生があった。」と。
だから私にとっては戦争と差別が親の仇なのである。
高知新聞の特集の意図はわかるが、この記事では同情を誘うことはあっても部落差別を解消するきっかけにはならないだろう。
何故なら「ルーツ」について明確な説明がない。
インターネットの普及によって、差別的言辞や表現が簡単に流布し深刻な人権侵害状況が広がっているという。
その通りだ。悪意のあるルーツの暴露だ。そのもっとも重大な事例として「示現者」という出版社の全国被差別部落の地名リストが挙げられている。これについて東京地裁も「プライバシーを違法に侵害する」と判示して出版禁止などの命令が出た。
インターネットで自分の出身地区名がさらされ衝撃を受けたという「九州に住む30代の女性」は「小学生の子供にはまだルーツを伝えていない」となげいたという。また、関西大の教授のコメントも掲載している。その中で教授はいう。
「変えようのないルーツ、努力ではどうにもならない事情を考慮しない情報に接した時は・・・・」
これでは、「ルーツ」がなにか負のイメージとなり、その「ルーツ」を変えようとしても変えられない、「ルーツ」を世間に暴露することが悪い、ということでおわる。
もちろん人の「ルーツ」を勝手に暴露することは許されないし、とりわけ部落民であるぞとの「ルーツ」の暴露は重大な人権侵害だ。だが、ここで「ルーツ」そのものが何の問題もないことが明らかにされねば、「ルーツ」について何かを隠そうとしているのではないか、その「ルーツ」には問題があるのではないかという疑惑と偏見をかえって呼び起こすことになる。
だからここで部落史の研究の成果を少しなりとも紹介するのが部落問題を扱う教育や報道関係者の義務的仕事であろう。
部落の起源にはいろいろな学説が戦前から発表されてきた。しかし、一部を除いて多くのまともな歴史学者や研究者は日本の古代中世、又は近世になって権力者によって庶民の一部が賤民にされたことから起こったということでは一致している。
形質人類学的研究でも、部落民は異民族ではなく、むしろ東日本方面の住民、縄文時代人の血統を色濃く引き継いでいること
が明らかになっている。(人類学者小浜基次大阪大学教授)
部落民のルーツは、とくに誇るようなものではないが、日本人全般のルーツと全く同じなのである。
もとより、異民族のルーツだったとしても何も恥ずることも差別されるべきこともないことは言うまでもない。
部落問題の記事や話が、ルーツをさらした、とか、ルーツは秘密だ、プライバシーだなどということで終わっては、ルーツへの変な興味や疑惑を起こし、差別意識をかえってかき立てるだろう。
報道関係者は日頃から、社内、社外を問わず部落問題の研究会や学習会を持ち、その記事に学問的な裏付けを持たせる努力をするべきである。
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