身の丈
荻生田文化相の身の丈発言が顰蹙を買っている。
身の丈とは身分ということである。
身分(差別)をわきまえろという発言が日本の政府閣僚から出てくるとは。
かつてはそうだった。差別をわきまえろが大義名分論の中核だった。
だが、戦後部落解放運動などの発展で、差別だ という声に震え上がる時代が出てきた。
差別を受けてきた人々がほう被りをして往還の隅を歩いていた時代から堂々と出身身分を名乗り権利を主張する時代がやってきていた。やりすぎもあったが激しい糾弾闘争も歴史的には重要な役割を果たし社会の迷妄を切り開いてきた。戦前戦後の解放運動がなければ部落大衆は今のような扱いは受けられなかったであろう。
だが、近年解放運動の沈潜などで、ヘイトスピーチなどが横行し、差別だといってもその差別を開き直る連中が出てきた。ネトウヨだけでなく荻生田のような身分差別を当然視する政治家も出てくるだろう。
人ながら 如是畜生ぞ 馬牛の 河原の者の 月見てもなぞ
これは16世紀初めの「七十一番職人歌合」の中の一首である。
ある学者はこの歌は穢多・河原者の立場になり代わっての歌だ、として
(人間でありながら、このように馬牛なみの扱いを受けている者なれば、美しい月を見ても心が晴れぬ)という解釈を示した。(「部落史を読む」阿吽社発行)
私の解釈では、この歌は差別を受けた当人が詠んだ歌であろう。如是などというお経の言葉を使っているから僧体のものかもしれない。
初めの、人ながら如是(にょぜ)畜生ぞ という句には、同じ人間でありながら畜生同然の扱いぞ という激しい叫びともとれる断定的義憤がある。
後の句には、馬牛とさげずまれる河原者であっても、月を見ても人並みに美しと感ずる、
それなのになぜこのような仕打ちを受けるのだ、という胸を打つ強い抗議の声が悲しげに響いている。
現代の解放運動は、抗議の怒りの思いを持つ多くの部落民がいるのにこの学者らの解釈のようにその声を感傷的詠嘆でしか理解しない、そのような低調な運動に似ている。
部落民だけではない。多くの受験生には経済的格差が厳しい。有名高校や大学に入学する大半は裕福な家庭の子供たちだ。部落を底辺としながら、大多数の国民が身分的格差ともいうべき差別の中で苦しんでいる。
中世の賤民たちの心の怒りは数百年たってもまだ晴れない。
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