前橋地裁判決の新聞評価
News & Letters/557
昨日3月18日の高知新聞の社説で前橋地裁判決について論評があった。
「市民感覚から言っても明快な判決ではないか」と支持した。
そして、結論として「国や東電は今一度、被害者救済の在り方を見直すべきだ。」
過去の事件についての評価でしかも裁判所の判決であれば、手放しで賛同するのも容易であろう。
しかし、今回の前橋地裁の判決は、過去の事故による被害の救済だけが問題になったわけではない。
原発の安全性、危険性を認知しながら対策を打たなかった電力会社や国の在り方を焦点にしている。
それは特に、地震の専門家による政府が出した二度にわたる指針(特に2002年7月の「長期評価」を、同じ政府機関である原子力関係機関が無視した
事実について厳しく責任を問うという判決になっている。訴訟記録を読んでいないが新聞報道などで判断するに、原告の被害者側は、そのことを申し立てたと考えられる。
裁判所側としても、自己の判断ではなく政府推本(地震調査研究推進本部)の知見をもとに原発側の非を論難できたのである。
高知新聞などマスコミ側の問題は、
第1に、
二度にわたる政府の来るべき大地震や大津波についての指針が出たにもかかわらず、原発側がこれを無視し続けてきた事実をなぜ克明に報道しなかったのか
被害を受けた後になって、しかも裁判所判断の後にこれらを明らかにして何の意義があるであろうか。
第2に
、問題は現在だ。政府推本は、昨年6月に来るべき地震の算定方式を国民の安全側に改正(改正レシピといわれる)した。
これによればほとんどの原発の現行の規準地震動を大きく超え、原発の稼働ができない。
玄海原発でもある学者の試算ではその原発の規準地
震動520ガルを大きく超え1000ガル近くの値が出るという回答が私になされた。
この改正レシピは衝撃的であり、脱原発全国弁護団会議の海渡、河合弁護士連名の規制委員会あての要請書も出され、各地(玄海原発以外)の住民訴訟で大きく取り上げられている。
マスコミや学者にとって過去の事件についての批判的評価は容易である。かれらはしかし、現在のついての評価は常に大丈夫という。
常に過去は悪く、現状は良好だという。
福島原発については、前橋地裁判決のように過去はだめだった、という。しかし、現状の原発については過去に対する批判のメスは振るわない。
原発に関して特に基準地震動について政府の正規の地震評価の総本山が出している算式を、原子力委員会や電力会社がこれを拒否、無視している。
この重大な事態、反逆行為について、報道は何も取り上げない。
大事故が起こった後で、またぞろ、実はこうであった、こうではなかったと、いくら論評しても後の祭りだ。
ん
過去の事案について振るったメスを、現在の事案にこそ腕をめくって振るうべきだ。
規制庁や電力会社が政府推本の出している方針に逆らった事実は過去だけでなく現在も進行中なのである。
しかもこれは国民全体の生命に直結する事案なのである。
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