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2017年2月20日 (月)

室戸市の利権行政について 控訴理由書

News & Letters/550

大阪豊中市の国有地を安倍晋三関係の学校法人にただ同然で「売却」したことが高知新聞に大きく報ぜられた。
国会で追及されインターネットでは早くから問題になっていたが、テレビなどではあまり報道されていない。

公有地を格安に売るという事案は地方行政では日常茶飯のことである。
室戸市の工業用地の造成も4億円かかったものをその半額で企業に売却していた。
本件の場合、室戸市羽根町の事件である。

山あり谷ありの土地をわざわざ選んで造成に費用を過大にかけて地権者や地元企業に存分にふるまい、他方別の企業には格安で売るという
2重の利権ベクトルの結果である。

平成29年(行コ)第3号 損害賠償請求控訴事件
      控訴人 田原茂良  同 前田國穂  同 楠瀬立子
     被控訴人 室戸市長小松幹侍

高松高等裁判所殿
訴控理由書
          平成29年2月15日
           〒781-6832 高知県室戸市吉良川町甲4015番地
             控訴人 田原茂良
           〒781-6831 高知県室戸市吉良川町乙5269番地20                控訴人 前田國穂  
            〒781-7220 高知県室戸市佐喜浜町甲1374番地2
             控訴人 楠瀬立子

【一】控訴理由の要旨

1、原判決は、本件工業用地が「市場価格」以上で売却されたから適正であると判示したが、過疎地の農村の宅地と整備された工業用地の対比で市場価格を云々するのは失当である。近隣の類似の物件(工業用地)で比較するべきである。原判決は、市場価格をもとにした被控訴人の行為が政府の不動産鑑定評価基準(甲第 号証)に反するものであることを見逃した。 

2、また、原判決が認定するその「市場価格」での売却(整備費の約半額)では初めから損をすることを考えていたということになり、本件請求の正当性、すなわち、「適正な対価」でないことを被控訴人(裁判所の追認)が自覚していたことになる。

3、また、原判決は、本件売却が室戸市に多大な損失を与えることについて地方自治法第96条第1項6号の特別決議(適切な対価なく譲渡)がないこと(地方自治法第237条第2項違反)について、何ら判断を示さなかったが、本件で議会の特別議決がないのは最高裁判例(昭和17年11月17日判決)に違反する。

4、また、原判決は、随意契約の違法性について法令(地方自治法施行令167条の2第1項2号)の誤読による誤った判断をした。本件売買契約は随意契約ではできない。

5、原判決は本件請求の主要テーマである私企業のために公共事業を計画し実施したものであることを認めているが、その認容はいかなる法的根拠によるのか明らかにしていない。

6、原判決は、誘致条例違反について見当違いの判断をした。

【二】控訴理由

一、市場価格について

原判決は、地方自治法第237条2項の「適正な対価とは、通常その財産の市場価格」だとして、「近傍に所在する」宅地の鑑定評価額が1㎡あたり3650円とし、それに比較して本件工業用地の1㎡当たりの価格が8526円だから、本件土地の売却が「適正な対価なくしてされたものであると認めるに足りない」と判示した。
この判断の誤りは以下のとおりである。

1、巨額の費用をかけ整備された工業用地と人口激減中の過疎で悩む室戸市の中でもさらにひどい過疎地域(羽根町大岸部落)の農家の宅地(売りに出しても容易に買い手がつ
かない土地)と対比することがいかに常識外れであるか、考えるまでもない。
過疎地の宅地と新しい工業用地を、同一の市場で対比することが許されるであろうか。

2、政府の『不動産鑑定評価基準』14頁~15頁及び乙第1号証「鑑定評価書」1枚目中段によると、「正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の
下での合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう。」と規定されている。

ここで第一に本件工業用地が「市場性」を持つのか、ということであるが、供用が開始された公共の土地や建物は、その供用が廃止された場合はともかく、通常は市場での「正常価格」を算定することはできない。公共の土地や建物(不動産)は一般の不動産の中に入れての市場性を有しないのである。普通財産も含め公共の不動産は本来売買や商取引の対象・目的になりえないからである。何人も自由に取引の市場に参入するなどという上掲の『不動産鑑定評価基準』の「現実の社会経済情勢の下での合理的と考えられる条件」のどの一つも満たさない。故に本件工業用地は、市場性を持たず、前掲『不動産鑑定評価基準』(14頁~15頁)がいう「特殊価格」というべきである。

3、前掲『不動産鑑定評価基準』によると、「鑑定評価の方式」は「原価法、事例比較法、収益還元法」があるとされる。どの方法を選択して鑑定を行うかは鑑定依頼者による。
乙第1号証によれば本件は事例比較法を採用(被控訴人が依頼したと推定される)し、本件とは数十キロメートル以上離れた「室戸市内の山間部等の地価水準の低い地域の事例」3例に基づき「比準価格」を求め、それによって本件近隣の農家とおぼしい宅地について評価し、鑑定評価額3650円を算定したものである。

しかし、前掲『不動産鑑定評価基準』や政府が決定した『公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱』第8条によれば「土地の正常な取引価格」とは、「類似地域」とか「近傍類地」の取引価格を基準とするとなっている。本件工業用地を「過疎化・高齢化や不況等により、個人の土地需要は低調で、価格は下落を続けている」(乙第1号証3枚目)土地の評価をもとにして評価するのは、政府の定めた鑑定評価の趣旨に根本的に違背している。
不動産鑑定士への依頼人である被控訴人の鑑定評価の手法は、近隣農家の宅地など公共用地の取得の場合には有効なものであると考えられるが、造成など相当な整備費をかけた公共用地の売却の場合には全く不適当である。

二、本件用地の価格決定の真相

1、被控訴人は、第1審被告準備書面(3)で室戸市内2か所の工業用地を挙示した。
 そのうちの一つは、本件工業用地から車で1,2分ほどの至近距離(羽根町甲1310-1 乙26号証の1)にある。被控訴人及び裁判所は当然、この類似性のある工業用地の価格決定方法を採用すべきであり、それらは、ほとんど造成・整備費用が売却価格となったものである。

すなわち、前掲『不動産鑑定評価基準』でいえば「原価方式」で鑑定結果を出しており、
特定土地の数倍の値を付けた「市場価格」といってもそのもとになる土地が過疎地のただ同然であれば意味がないのである。すなわち、
被控訴人の原審準備書面(3)や乙24号証~26号証によれば、平成14年に室戸市は土地開発公社を介して2地区(室戸岬町高岡、羽根町)5件の工業用地を造成・整備し、これを海洋深層水関連企業に売却した。

(ア) 乙25号証の3の室戸岬町高岡の場合の収支

(開発面積対分譲土地の比率は92.61%)
  整備された工業用地の土地開発公社からの購入価格  3億9966万4999円
                  分譲価格総額   4億2038万2922円
                             となっている。
(イ)乙26号証の3の羽根町の場合の収支

    (分譲割合は96%)
     土地開発公社からの購入価格   2億2074万5036円   
            分譲価格総額   2億0070万7794円
  (イ)の場合農道用地整備の費用も相当負担させられているので、工業用地整 
  備費のほとんどを企業は支払っている。この地は元は河川敷であり海にも近い 
  0メートル地帯に位置する。津波襲来はもとより河川の大水が出たときは極め 
  て危険な場所であるから、人の居住宅地には不適当である。

この分譲価格の算式について被控訴人は、原審準備書面(3)で次のように言う。
室戸市は、「高岡地区海洋深層水関連事業用地」の分譲の事例では、開発区域全体の総事業費を分譲面積で按分して分譲価格に反映させており、また、「羽根地区海洋深層水関連事業用地」の事例では、開発区域全体の総事業費につき、分譲面積と農道用地面積で按分して分譲価格を算定しており、何れの場合も、分譲価格の算式に当たって「分譲割合」を組み入れていないが、・・・・(4頁中段)といい、さらにこの様なやり方は、
本件訴訟における原告らの主張によっても、この分譲価格は適正価格ということになると思われる。(5頁下段 下線控訴人)とまで評価している。

2、被控訴人は同じ原審準備書面(3)で、本件の工業用地の場合には、上記のような「適正な価格」の算式は取れなかったという。その吐露するところによると、
室戸市は、本件工業用地開発事業の取り組みを開始するにあたって、富士鍛工㈱側から、同社の分譲価格についての考え方を聴取したが、「奈半利工場を新設した際の土地購入価格の坪2万円程度が基本となる」旨の回答があり、以後の室戸市の事業計画は、この「坪2万円程度」の分譲価格を一応の目安として事業遂行のために必要となる財源の手当てをすることになった。(5頁下段)

原判決が言うような「市場価格」とか、これまでの室戸市の工業用地の価格算定方式(原価方式)ではなくて、譲渡先の企業の意向「坪2万円程度」が本件譲渡価格としてあらかじめ設定されていたのである。そして、被控訴人はいう。
「坪2万円程度」の分譲代金をもってしては、到底、開発に要した事業費用(経費)を回収することができないことが明白であったが・・・(8頁上段)それでも被控訴人は、室戸市の財政や雇用のことを考え、その線で分譲をしたというのである。
したがって、その判断の前提となる客観的資料が欠けるために疑義が残ったとしても、本件工業用地を本件売買契約に定める2億1230万3000円の分譲価格で富士鍛工㈱に売却する必要性があった・・・(8頁下段 下線部控訴人)ということを分かってほしいということである。

原判決が本件工業用地の売買が「市場価格」よりも高く売られたから何の問題もない、ということではなく、被控訴人は、本件売却価格が業者の相当無理な意向に基づくこと、これが「適正な価格」ではないこと、「客観的資料」が欠けていること、「疑義が残った」ことなど、その苦衷を正直に告白しているのである。
ちなみに富士鍛工が例示した奈半利工場の敷地は、貯木場の空き地で何らの整備も施す必要がない運動場の様な平坦地であるが、海岸に接した低地であるため南海地震の迫る今日、居住宅地としては不適な場所である。このような土地の値段でという業者の法外な要望にこたえようとすること自体が異常であろう。

3、このようなことになったのは、何故か。二つほど考えられる。

 一つは、もちろん繰り返し強調する富士鍛㈱という企業の意向を無視できなかったことであり、今一つは、「小松市長、室戸市議会議員は、本件開発土地が、台地と平地とが混在した区域であるため・・・認識で一致していた。」(原審準備書面(3)7頁下段~8頁上段)という事情である。「小松市長」も本件工業用地の羽根町出身であり、造成工事を請け負った土建業者もほとんど地元羽根町であり、関与した「市議会議員」も当該工業用地の地権者にいた。
何故、巨額の整備がかかる「台地と平地とが混在した区域」をわざわざ開発地に選んだのだろうか。被控訴人の準備書面に「小松市長、室戸市議会議員」という言葉が並べられたが、議会外で両者が開発地の選定、分譲価格の決定に関与し暗躍していたことが示唆されている。
被控訴人の原審準備書面(3)は、本件分譲価格が、正常な整備事業の正常な決定でないことをつぶさに語っている。このことの自覚があるのであるから、室戸市の損害について自ら責任を負わねばならない。

3、これら如上の経緯を別にしても、原判決及び被控訴人が、近隣過疎地農家の宅地の価 
 格をもとにして「市場価格」で本件工業用地を売却したということは、本件請求を逃れる理由にはならない。
むしろ、もともと市場性がない物件を、原価方式をとらず、「取引事例比較法」を選択して不適格な評価対象を選び、でたらめな鑑定評価をもとに本件事業において意図的に室戸市に巨額の損害を被らせた、ということが実証されるということになる。
これは、地方自治法第2条第13項の事務処理の「最小の経費で最大の効果」をあげるようにする義務規定に違反している。

三、市議会の特別決議の欠如についての判断

原判決は、「市場価格」論を持ち出すことにより本件工業用地が「適正価格」で売却されたとしてその整備費と売却価格の差額について判断をしなかった。しかし、「市場価格」論が正しいと仮定してもそれによって差額が解消することはない。むしろ、そのことによって差額が生じたのである。財務会計上この差額については処理する必要がある。
その処理の方法はすでに地方自治法に用意されていて、すなわち96条の1項6号である。
被控訴人は、本件売却について議会の承認を得ていると主張するが、それは、第1審答弁書でいうとおり地方自治法第96条1項の8号規定に基づくものであり、通常の契約の承認案件の議決にすぎない。必要なのは地方自治法第96条1項6号規定(「条例で定める場合を除くほか・・・適正な対価なくしてこれを譲渡し・・・」)に基づく特別決議である。このことについては最高裁第1小法廷平成17年11月17日の判例(平成15年(行ヒ)231号)がある。すなわち、
地方自治法第237条2項は、条例又は議会の議決による場合でなければ、普通地方公共団体の財産を適正な対価なくして譲渡し、または貸し付けてはならない旨規定している。
一方、同法96条1項6号は、条例で定める場合を除くほか、財産を適正な対価なくして譲渡し、または貸し付けることを議会の議決事項として定めている。これらの規定は、適正な対価によらずに普通地方公共団体の財産の譲渡等を行うことを無制限に許すとすると、当該普通地方公共団体に多大の損失を生ずる恐れがあるのみならず、特定の者の利益のために財政の運営がゆがめられる恐れもあるため、条例による場合のほかは、適正な対価によらずに財産の譲渡等を行う必要性と妥当性を議会において審議させ、当該譲渡等を行うかどうかを議会の判断にゆだねることとしたものである。このような同法237条2項等の規定の趣旨にかんがみれば、同項の議会の議決があったというためには、当該譲渡等が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上当該譲渡等を行うことを認める趣旨の議決がされたことを要するというべきである。議会において当該譲渡等の対価の妥当性について審議がされたというだけでは、当該譲渡等が適正な対価によらないものであることを前提として審議された上議決がされたということはできない。
まさに本件において、整備費用と売却価格とに巨額の差等がある事実について問題にせずただ単に本件売却価格が妥当だとの認識で議決しただけでは、適法にはならないのである。
被控訴人の本件行為は地方自治法第237条2項に違反する。
原判決は2億円もの差額を認識していながら、それについての議会の特別議決の欠如について判断しなかった。
ちなみに「室戸市有財産の交換、譲与、無償貸し付け等に関する条例」第3条の規定中「時価よりも低い価額で譲渡」できる場合の対象には富士鍛工は入らない。

四、随意契約、最高裁判例について

1、原判決は、地方自治法第234条2項について地方自治法施行令167条の2第1項2号の規定のうち、
「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」も随意契約によることができると定めており、契約類型に限定を加えていない・・・、と解釈して本件工業用地の売買契約を随意契約でしたのは適法であると判示し、それを補強するために最高裁第二小法廷判例(昭和62年3月20日判決 昭和57年(行ツ)第74号)を引用した。(原判決13頁下段~15頁中段)
確かにこの最高裁判例では、競争入札の方法による契約が不可能又は著しく困難とは言えない場合でも、契約担当者が契約の性質や目的に照らし普通地方公共団体にとって妥当であり利益になると合理的に判断した場合は、随意契約によることも許されるという。
原判決は、この最高裁判例に文字通り全面的に依拠して判断をした。
しかし、この最高裁判決の数か月後同じ地方自治法施行令167条の2第1項の各号について、最高裁第三小法廷で明確な判断が下された。(昭和62年5月19日最高裁判決 (昭和56年行ツ144号)
随意契約で町有地売却の事件についての判決で本件に関係ある部分を引用すると、
法二三四条二項は、普通地方公共団体が締結する契約の方法について「指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。」と規定し、これを受けて令一六七条の二第一項は随意契約によることができる場合を列挙しているのであるから、右列挙された事由のいずれにも該当しないのに随意契約の方法により締結された契約は違法というべきことが明らかである。
と判断した。本件は大阪府東鳥取町の町長が町有山地を随意契約で民間に売却した事件であるが、高裁、最高裁とも施行令167条の2第一項で列挙された事由のいずれにも当たらないと判断したものである。施行令167条2第1項で列挙されている事由は、
1号は、売買、貸借、請負などその他の契約(価格の上限あり)
2号は、不動産の買入、又は借入、物品の製造、修理、加工、物品の売払いその他の契約でその性質・目的が競争入札に適しないもの
3号は、障害者からの買入
4号は、認定を受けた者からの新商品の買入、
6号は、競争入札にすれば不利となる場合
7号は、時価に比して著しく有利な価格での契約の見込みがある
8号は、入札者がないとき
9号は、落札者が契約を締結しないとき
以上9つの場合に該当しなければ随意契約を行うことができないし、町有地の売却はこのいずれにも該当しないと最高裁判所は判断した。
この判断には第2号規定の「不動産の買入・・・その他その性質又は目的が競争入札・・・・」も入っていることは言うを俟たないだろう。

2、問題の第2号規定中の「…その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないもの」を2号規定から外し掲示された9号とは別号のように取り扱い、あらゆる契約でそ
の性質・目的が競争入札に適しないものについて随意契約が許されるという原判決などの
ような解釈が許されるか、ということである。
それは条理上不可能なことである。2号規定の「不動産の買入・・・物品の売払いその他の契約でその性質・・・」のその他というのは、2号規定の枠の中の同類の事由であって、1号規定の不動産の売買など他の号に規定されている事由にまで飛翔拡大されえない。
仮にそのような解釈が許されるなら施行令167条2の随意契約を限局する規定はほとんど無意味となり、上掲最高裁の東鳥取町の土地売却や本件だけでなくどんな契約でも地方自治体の首長の判断で自由に随意契約が可能となる。その判断が合理的であるかどうかは何の規定もないから、あらゆる随意契約事案で裁判所の判断を仰がなくてはならず、結局野放しになるであろう。
62年5月19日の最高裁第三小法廷の判例(東鳥取町事件)でも本件の場合でも明らかに1号規定の「物件の売買」の範疇に入るが、それには契約価格の制限(上限130万円程度)があり、本件の場合も、制限価格を遥かに超過し、随意契約はできない。
(なお、昭和62年5月19日の前掲最高裁判決は、東鳥取町の公有地売却の行為が地方自治法施行令167条2第1項の各号いずれにも該当せず違反であるとしたが、その売買契約は無効にはならないとした。しかしこの判断は、地方自治法第2条第16項の規定(法令違反の事務処理は無効)を無視したものであり、誤判であると考えられる。法令で無効と定められたものは裁判官の判断を待つまでもなく絶対的に無効である。)
五、私企業のための公共事業
1、原判決は、地方自治体が、特定一私企業のために公共事業を遂行することができるかという問題については、以下のように言う。
「原告らが本件住民訴訟の対象としている財務会計行為は、本件売買契約の締結行為であるから、室戸市が羽根町土地を取得し、これを造成したことに公金が支出されたことが違法であるかは判断の対象外である。」として判断を回避した。
しかし、本件請求の住民訴訟及び元の住民監査請求は、売買契約の金額が不当に過小であることを直接問題にしているだけではなく、用地整備費と売却収入との著しい「差損」について措置するよう請求しているものである。その差額について被控訴人は契約担当である小松幹侍に対してその「差損」について賠償請求をすることを求めているものである。
したがって、本件工業用地の整備事業及びそれにかかる費用の支出についても妥当なものかどうか判断が下されなければ事案を判断できない。
室戸市は既述の通り本件工業用地整備事業を行う前に2地区でかなり大きな工業用地整備事業を遂行してきたが、それは室戸市の行政機関が直接遂行したのではない。
乙25号証、同26号証に見る通り室戸市土地開発公社という団体が整備事業をやり、その結果物を市が購入するという手法を取ってきた。室戸市の業務は購入した用地を販売するということだけであった。だが、本件では直接室戸市が私企業のために開発事業を遂行した。そういうことが許される法的根拠は何なのかについて裁判所は判断をする義務があると考える。

原判決は、「本件土地は、富士鍛工の工場の移転先として開発されたものであるから、公用又は公共用に供する財産であるということはできず・・・」(原判決16頁)とあからさまに公共目的性を否定しているのである。
2、そもそも、憲法92条や地方自治法第1条でいう「地方自治の本旨」というものが具体的に何を指すかは明瞭ではないが、通説では、地方自治は、団体事務と住民自治(住
民参加)があり、それぞれ法令や規則に基づき公共の事務を扱うということである。
住民自治の場合はともかく普通地方公共団体自身の担任事務が公共目的であることはいうまでもない。

もちろん国や地方公共団体が、地域振興などの名目で個人や民間企業に補助金等の公金を交付したり、貸し付けたりすることも可能であり今日こういった交付金が数多く存在する。
しかし、これらは、すべて制度として公開され、一定の要件を満たす場合誰でも応募し申請をすることができ、民主的手続きを経て交付決定がなされる。
室戸市にも補助金交付規則があり、又企業誘致推進条例が存在している。
監査請求の段階や第1審当初において被控訴人は、本件事業は、室戸市企業誘致推進条例第3条に基づいて遂行していると主張した。(甲第2号証監査結果通知、原審答弁書)
法令・規則があればこれに従わねばならないし、不備であれば改正し、なければ新たに制定しなければならない。被控訴人は、室戸市に該当する趣旨の企業への支援の条例がある以上これに従わねばならない。このような既存の法令・規則を無視して首長の自由裁量で無制限に公金を民間企業に支出することは、許されていない。

被控訴人は第1審答弁書で、監査委員の報告書のなかで室戸市の執行部が本件事業の用地確保の協力として室戸市企業誘致推進条例第3条に基づき行ったという認定を認め、自らも同条例3条について「室戸市が工業用地となる土地を買収し、それを造成した上で誘致企業に売却する手法によることも、用地等の確保の協力に含まれる。」と主張し本件工業用地整備事業が企業誘致推進条例に基づくものであると主張した。

もしこのようであれば、たとえ私企業であっても公共の資金を利用することは許されるということになるが、しかし、被控訴人は控訴人らの反論に会い、適当な反論ができないままその後この条例のことは何も語らなかった。控訴人らの批判というのは、この企業誘致推進条例を根拠にして本件事業が行われたとしたら、この条例を実行する上で施行規則で定められた諸手続き(申請書や付属書類の提出など)があるはずであるが、それが何もなされず証拠の書類も皆無であることの指摘があって実際にはこの条例を適用していなかったことが暴露したのである。被控訴人の企業誘致推進条例第3条に依拠したという主張は
ひっこめたのであれば、それでは本件整備事業はいかなる法令に基づいてなされたのか、公共性を帯びる何の痕跡があるのか原判決は何も指摘していない。

特定企業からの固定資産税、雇用などを確保するためだ、といってもそのようなことが公金支出の理由になるわけではない。どのような事業でも地元の企業や個人の税金や雇用確保だといいうるからであり、そんな口実が通用するならいかなる法令・規則もいらないことになる。

それでは、普通財産だから、誰にでも首長が自由に処分できるといっても、わがまま勝手は許されないのであって、契約についての法令、処分遂行上の公正な手続き等の法令は遵守されなくてはならない。はじめから他の企業や個人の参加を一切遮断して特定企業に迎合する事業を設定し実行することが許されるはずはない。

六、室戸市企業誘致(推進)条例違反について

原判決は、誘致条例(正規には室戸市企業誘致推進条例)違反について次のように言う。
誘致条例に定められている手続きは、誘致条例第4条による指定を受けた誘致企業に対し、同条例6条1項所定の奨励金を交付するためのものであって、不動産の売却に適用されるものではないため、本件行為が誘致条例に違反したということはできない。
控訴人らは何も勝手に本件整備事業が企業誘致推進条例に違反しているといっているのではない。被控訴人及び被控訴人監査委員が、本件整備事業は室戸市の企業誘致推進条例第3条に基づく事業だと主張したので、控訴人らが原審控訴人準備書面(1)などで、誘致企業指定など手続上同条例に違反しているではないかという指摘をしたのであった。
その結果、同条例施行規則に定められた手続きは何もしていず何の証拠書類もなかったことが判明したのである。
被控訴人らは、監査結果通知書や一審答弁書で同条例に基づくと主張しそれを撤回しなかったのであるから、原判決が、それに適合していないという判断をしたのであれば、それは控訴人らの主張に対してではなく、(むしろ控訴人の主張を肯認するものであるから)本件事業そのものについて違法性ありとの判断でなければならない。企業支援の条例にも適合せず、補助金交付規則も採用しないとすれば、他に私企業への資金援助の制度はない。本件事業を可能とする公の制度や規則が何もない以上は、本件事業遂行は違法性を帯びることは明らかである。

被控訴人原審準備書面(3)10頁で
地方公共団体としては、室戸市企業誘致推進条例のような条例が存在しない場合であっても、行政としての目的を達成するために必要と判断される場合には、「事業所立地に係る協力」を行うものであり、それによって法令違反の問題が生ずることはない。という。
これは、まるでトランプ大統領の様な主張であるが、首長や議員が特定企業のために必要と思えば億単位の公金を何のルールも決めずにいくらでも使えるという利権政治宣言の様なものであって、民主主義的な、又法治主義的な地方自治の本旨からはるかに遠い。

結語

地方自治法第2条第15項は、「地方自治体は法令に違反してその事務を処理してはならない。」と規定し、同条第16項では、「前項の規定に違反して行った地方公共団体の行為は、これを無効とする。」と明記している。原判決は本件における被控訴人の行為の違法性についてまともに判断せず、物件の評価法を誤り、法令の曲解、見当違いの判断までして被控訴人の責任を免除した。法令や常識に基づく正当な判断を求めるものである。

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