裁判は続く
News & Letters/538
1000万円を貸したが、返済を拒絶されている。松延宏幸町長は、裁判所で貸付金を回収する義務はないと主張した。
1000万円はどうなるのだろうか。この馬鹿げた主張にも反論をしなければならない。
公金を貸した首長がそれを回収する義務がないなどと主張するとは予想もできないことであった。
奨学資金でもなんでも東洋町から金を借りているものは、払わなくてもいいことになるのか。
平成28年行ウ第6号 損害賠償請求事件
原告 澤山保太郎
被告 東洋町長松延宏幸
原告準備書面(1)
高知地方裁判所 殿
平成28年12月2日
原告は以下の通り弁論を準備する。
はじめに
別件訴訟の内容と経過について
一、 債権について
普通地方自治体で問題になる税金等の滞納の扱いについては一般的にその市町村の債権を二種に分けて処理する。
一つは公債権でこれには強制徴収権(差し押さえなど自力執行権)のあるもの(地方税など)と非強制徴収権で自力徴収権のないもの(公営住宅使用料や水道料金など)がある。
今一つは、私債権で私法上の契約などに基づいて発生した債権であるが、徴収についてはこれには自力執行権は例外を除いてほとんどない。
自力執行権のない場合は、督促状を発行したり訴えを起こして公金徴収を履行しなければならないことになっている。この原則は東洋町も実行しており、論議の余地がない。
本件の場合も私債権として貸付金の回収をする手続きを踏みこれを回収することは東洋町長の義務であって、これを怠ることは、地方自治法第240条第2項に違反する。
すなわちその地方自治法は
「普通地方公共団体の長は、債権について、政令の定めるところにより、その督促、強制執行その他その保全及び取立てに関し必要な措置を取らなければならない。」と規定し同法施行令171条(督促)、171条の2(強制執行、訴訟)の手続きを義務付けている。
平成16年4月23日最高裁第二小法廷の判例によれば、地方自治法の債権の行使については、首長の自由裁量の余地は全くないと判示されている。
二、本件債権の行使について
しかるに、被告答弁書で「東洋町が野根漁協に対して、平成23年11月に1000万円を貸付け、被告が東洋町の町長として貸し付け手続きに関与したことは認めるが、貸付金を回収する義務があることは争う。被告が負うのは、地方自治法、同施行令で規定された債権を管理することである」などというのは公職を冒涜する主張であり言語道断である。
貸付金の回収義務は前記の通りであって被告はこれを免れない。
そもそも債権は、債務者が履行する義務があり、その債権の管理は、すなわち債務者の義務履行を管理することなのである。貸付金の債権管理とは、貸付金を債務者から回収する行為である。そのことは、地方自治法第240条の冒頭で定義づけられている。すなわち、
「債権」とは金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利である、と明記されている。
ここでいう「金銭の給付」とは本件の場合、1000万円の債務者が東洋町に弁済することであり、債権者が貸付金を回収することである。被告は債権を何か宝物か金庫のように考え、これを大事に抱えていることが自己の任務と考えているようであるが、いやしくも地方公共団体の首長として余りにも不甲斐ない認識であろう。
本件の監査請求及び訴えは、地方自治法第242条の1第1項の「違法もしくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実」に基づくものである。
すなわち違法若しくは不当に公金の徴収を怠る事実について監査請求及び訴えがなされたものである。貸付金について督促状を発しても支払わない場合、強制的に支払わせる手段を取るという意味で本件の場合も徴収という言葉が妥当である。
被告が貸付金の回収の義務がないというのであれば、その法的根拠を示すべきであろう。
三、損害の発生について
被告答弁書は、「現在、借用書(甲6)記載の東洋町が野根漁協に貸し付けた1000万
円が東洋町に弁済されていないことは事実である。しかし、将来において、東洋町が野根漁協から、1000万円の返済を受けることができないことは確定していないから、現在、東洋町に1000万円の損害は発生していない。」という。
1、高松高裁の判決文他
本件については、別件で高知地方裁判所(平成24年行ウ第7号)、高松高等裁判所(平成26年行コ第3号)、最高裁第二小法廷(平成27年行ヒ第156号)、高松高裁(平成28年行コ第8号)で裁かれており、1000万円の貸付について東洋町長松延宏幸に不法行為があり賠償責任を追及する訴訟が続いてきた。
これらの裁判で問題になったのは松延宏幸の野根漁協への本件貸付について公金支出行為の当否であるが、1審では違法性があるが、松延宏幸がその違法性を認識していなかったとし賠償責任は免じ、第二審では、違法であり故意性があったと認定し賠償責任を認定した。しかるに最高裁及び高裁での差し戻審では、違法性はなかった、合理的であったという判断が下され、現在最高裁に上告中である。
松延宏幸の本件貸付の可否についてはともかく、漁協側の返済についての態度については、最初の高松高裁の判断(平成26年12月18日判決)があるだけである。すなわち
「被控訴人は、東洋町には現実の損害がないと主張するが、2で認定したところによれば、野根漁協は本件貸付の効力自体を否定しており、今後貸付金を回収する見込みがあるとはいえず、採用することはできない。」と断じた。
この判決文(Ⅰ6頁~17頁)によれば、
「野根漁協の本件貸付当時の代表理事(組合長)である桜井菊蔵は平成24年3月の総会において、本件申請時に東洋町に差し入れた確約書に署名した理事らの義務を改選後の理事らに引き継ぐことを議題として諮ったが、本件貸付けを受ける至った本件理事会決議及び本件定款変更の手続きに瑕疵があるとの意見が出て決議に至らず、同年6月7日に代表理事を辞任し、他の理事も、松吉保彦を除き辞任した(甲21,28)
さらに、
「後任の代表理事に就任した桜井淳一は、本件貸付に至る本件理事会決議及び本件定款変更の手続きに瑕疵があるとして、本件貸付の平成25年度分200万円の償還期限である同26年3月31日を経過した後である同年5月6日、東洋町に対し、本件貸付の効力を否定する内容の文書を送付して200万円の支払いを拒絶するとともに、同年8月16日の野根漁協臨時総会において、本件貸付の効力を認めないとの結論を出した旨報告し、本件貸付の効力を争っている。」(前提事実(4)、甲35,36)
高松高裁のこの事実認定は、事後の裁判でも問題になっていない。
2、野根漁協の本件貸付金の事実を否定する理由
第一に、本件貸付金を決議した理事会の名簿が虚偽であること、正規の理事名簿(定数8名)で計算すれば、出席したという6名の理事のうち部外者(松吉保)が1名、特別利害関係人2人(親子、実弟、松吉保彦、松吉孝雄)を除けば3人(桜井菊蔵、桜井勇、井崎勝行)であり、正規の出席可能理事6人(桜井菊蔵、桜井勇、井崎勝行、桜井淳一、桜井春雄、松田博光)のうち3人出席では過半数に達していないから、その理事会は成立していない。
第二に、そもそも6人の理事が平成23年11月3日に理事会を招集し、開催した事実は存在していない。理事会を開いたことにして、後で議事録に署名しただけである。
野根漁協の特別調査報告書でも出席したという理事のうち2名(桜井勇、松吉保彦)はその日出漁していて陸にはいなかったとされている。
第三に、桜井菊蔵が本件貸付金申請の直前に組合長に選任されたという理事会は、正規に招集されたものではなく、また、議決に参加した理事のうち松吉保は理事に選出されたことは一度もない部外者である。そのものを除くと出席理事は4人しかいない。8人の理事が存在している中で、4人の出席では理事会は成立していず、桜井菊蔵は組合長にはなれない。正規の組合長でない者が、申請して借り受けた貸付金は漁協として責任を負えない。
第四に、本件貸付金を議決したとされる総会の議事録を見ても、1000万円借り入れるという文言は何も記載されていず、訳の分からない「定款変更」の話だけである。
組合員総会で1000万円を借り受けるという決議はしたことがない。
以上のような主張について松延宏幸側が反論することができるであろうか。
最高裁では、虚偽の理事名簿を提出し、特別利害関係人の計算をして乗り切ったが、野根漁協の総会でその虚偽名簿が通用するかどうか。かつて一度も正規の総会で選任されたこともない人間を3人も理事にでっちあげ(従って正規の理事3人を抹消)する行為は雲の上の最高裁や高裁では通用するが現場では笑われるだろう。例えばそのでっちあげ理事のうち一人(松吉裕也)は、野根漁協の職員である。職員は経営者である理事職を兼任できないことは自明であろう。
3、貸付金規則の実行
本件貸付は貸付規則に基づいて実行された。この貸付規則は、正規の手続きで公示されていず、無効なものであることは、第二審、最高裁でも認定され、本件貸付はいかなる規則にも基づかず、町長の裁量によって行われたとされた、という。
しかしながら、東洋町長松延宏幸は、この貸付を行うにおいて議会で本件貸付規則を示し、それが定めた手続によって貸付を行うことを言明した。
してみれば自らの裁量によって本件貸付規則に基づいて貸付を実行したということができるから、本件貸付規則の各規定に自ら拘束されるということになる。
本件貸付規則第第10条に組合及び転貸しを受けた漁業者が「貸付金を目的以外に使用したときには貸付金の一部又は全部について返済を求めることができる」と定めている。
転貸し先である松吉小敷が目的にそって漁具類を購入したという記録、これを操業で利用したという事実を証する記録は全くない。松吉小敷が1000万円の借入金で何かを購入したという形跡は全く存在せず、松吉小敷は本件借入金を受けて1年もしないうちに操業をやめたまま今日に至っている。
貸付金の使途を確認するのは被告の責務であり本件規則第12条には関係漁業者から「関係帳簿類その他必要な物件」を検査することができることになっているが、被告は全く無関心である。
目的通りの漁具の購入の事実がない、使途が不明である以上、償還期日に関わらず、規則第10条に基づいて本件貸付金の全額の返還を求めねばならなかったが、被告は何もしていない。返還金は債権であり、これを回収しないのは松延宏幸の違法行為である。
4、すでに3期分が償還期日を過ぎた
1件記録によれば、本件貸付金の償還について督促状を発行しているがすでに3期分600万円が返済期日を過ぎている。やがて残りの1期分も間もなく返済期日を過ぎても返済がされないし、最後の1期分も同じように返済され得ないだろう。
すくなくとも、これまでの3期分については地方自治法に定められた通り、債権を実行しなければならないし、公金を確保しなければならない。本件貸付金を借りた当時の漁協理事会の署名理事の中には高齢のためすでに死亡したり(2人)、漁業をやめていく者が続出している。
本件規則第11条によれば、償還期日までに支払わなかった場合10.75%の延滞金を徴収することになっている。すでに延滞金だけでも100万円を超えている。
2年後以降の延滞金は年間100万円を超えることになるだろう。
5、督促状などの送り先の誤り
被告は、督促状を野根漁協に送付して受取がなされなかったなどといっているが、
現在の野根漁協の本件貸付金についての拒絶的態度は変わらない。又その理由が存在する。
被告が償還金を請求する相手は、本件確約書に署名押印した「理事」たちである。
その理事について原告が、それらは正規の理事ではない、と主張したのに対し、被告は最高裁まで一貫してそれが正規の理事であるとして否定しなかった。
前掲高裁判決文の通り漁協総会では本件貸付金については否認された。理事会の成立も重大な疑義がある。そうである以上少なくとも総会承認のない事業についてこれを実行した責任は当時の理事に係ることは明らかである。
その確約書(甲第3号証の1,2)によると、「3、規則に定める事項及び本確約書の履行が困難となった場合、町が法的措置(役員等の個人財産への差し押さえ、提訴等)を執行することについて、異議はありませ」と確約されていた。
被告と談合して本件貸付を実行したのは、これら確約書に署名押印した「理事」たちであることは明らかである。
支払いの通知書や督促状、また催告書を間違った者に送り続けたのでは全く無効な行為であり、送ったことにはならない。強制徴収も訴訟も相手が間違っているなら問題外である。
被告は、これらの事情はよくわかっているはずだから、督促状の送り先が借り受けた当時の理事かまたは、又貸し相手であることを知っていながら、わざと情実か何かで避けているものと考えられる。
以上の通りであるから、平成23年11月台風の災害の救済名目で出した東洋町の公金1000万円は丸ごと使途不明となり、償還期日とは関係なく全額返還されるべきものであるが、何の手続きもなされていない。また、これがまともな貸付金としても、償還期日が超過しているのに元金(3回分600万円)も延滞金もそのまま放置されている。
償還金の徴収は時効が来るまでの間にすればよい、という考えでいるが、理事会に署名押印したという理事のうち、すでに、当時組合長を名乗っていた桜井菊蔵と理事であった松吉孝雄は死亡している。次々に高齢化した関係者はこの世から去っていくのは止めようがない。時効の前に死に絶えたら徴収すべき方策がなくなる。
1000万円の公金を回収して町民のために有効に使うということでは、被告は、可及的速やかにこれを処理する義務がある。
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