猪木正道氏の死去
News & Letters/317
政治学者猪木正道氏の訃報に接した。
彼は、河合栄次郎氏の弟子と自他ともに認めている人だ。
しかし、戦闘的自由主義者LIBERALIST MILITANTである河合栄次郎氏とは猪木正道氏とは相いれない。むしろ正反対だ。
猪木氏が良かったのは少壮気鋭の学者であった時期に書かれた「ロシア革命史」という著作だけだ。猪木氏は徹頭徹尾現実主義的な政治理論家であり続けた。
河合はそうではない。河合は理想主義哲学がバックボーンに貫かれていた。
「トマス・ヒルグリーの思想体系」という大著があるとおり、河合は、現実政治に対して新カント派の哲学に裏打ちされた政治的理想を対置して果敢に戦った。
私は大学1年の秋、河合栄次郎の著作に読みふけった。
戦前戦時中に軍国主義と闘った人間のもの以外の本は読む気がしなかった。
河合は2・26事件を公然と批判する等十代後半の私の目から見ても最高の学者であった。
「学生に与う」など河合の著作の中でも、イギリスの哲学者T・H ヒルグリーンの思想をまとめたその河合の著作を私は深い感銘をもって読んだ。
私はマルクス主義を奉ずる前に河合主義者であった。
だから、学生運動に入って共産主義思想に没入するときにはすでに、ソ連や中国流の共産主義とは全く相いれない思想的土壌の中にあった。
現在、アメリカ大統領選、中国共産党大会、そして日本の維新の会等の登場による混乱
せる日本の中で依然として河合栄次郎の問題意識が生きている。
今の世界や日本において政治的理想とは何か。
回答:
プロレタリア大衆が政治権力を握って、人と人が平和で、地球の自然環境を破しない生活文化を構築すること、これに尽きる。
アメリカでも中国でも、そして日本でも、大多数のプロレタリア人民、大多数の貧民たちの願いや声が権力に反映される道はほとんどまったくない。
この世は、ますます金権腐敗勢力が権力を独占する、その構造が揺るがない。
金権腐敗勢力は、絶対に人類の平和な世界を築かせないし、原発や核兵器による放射能汚染や一酸化炭素拡散など地球環境の破壊をやめない。
だから方法はともかく、プロレタリアート独裁が必要なのである。
独裁といえば聞こえは悪いが、決して共産党独裁ではなく、階級の独裁、プロレタ
リア階級による徹底した民主主義的統治が実現されねばならない、ということである。
すべからく政治家には哲学が必要だ。そして、真の唯物論に到達するには理想主義(別名観念論)哲学を一度はくぐるが必要があろう。マルクスも若い日には急進的へーゲリアンであった。
政治的理想。それは、マルクスの共産党宣言では「各人の自由なる発展が自余の人間の妨げにならないばかりか、その条件となる」という社会と表現されているが、それを実現することだ。
河合栄次郎はそれを猪木正道のように「空想」だ、などとは決して言わないであろう。猪木氏のリアルポリティクスには河合栄次郎の影はなく、彼猪木自身が若き頃にものした「ロシア革命史」のパトスですら喪失していた。
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