大阪の乱
News & Letters/277
大阪が大分揺れている。橋下氏の維新の会の動きを軸に、新しい政治的対立が生まれた。それは内乱と言うよりも混乱と言うべき状況だ。
橋下維新の目指す府と市を合体させ大坂都にする、その上でいくつかの区に分割して独立の自治体にする。それを都知事が統括する。府が都になると言っても政治権力が東京から移動するわけではないし、昔、東京と大坂に警視庁があったが、権力機構に特別な意味はなかったから消えた、それと同じようなものか。大阪都が東京都と聳立するためには中央政治権力の分立が必要だ。錦の御旗と皇居と国会議事堂を東京が取っている以上、大阪都は単に府が消えただけに終わろう。
問題は政治機構の改編で何をもたらそうとするのか、だ。
橋下が騒がなくても都道府県が二重行政で無駄であることは既に知れたことだ。
県庁の職員と財源は検査機能を残してすべて市町村に降下させるべきだ。
日本をいくつかの道州に収れんしようというのとは反対に、全ての中間項を取っ払って市町村に権限を移行するという行政改革が本当の地方分権だ。そして各市町村でも、現在の議員制だけではなく、町村をブロックに分けて地域評議会を作り、それに一定の予算を分割し相当な自治活動をしてもらうことだ。地域評議会は夜や休日に会を開き評議員は日当制で出席をしてもらう。
下へ下へ権力と財源を押し広げることが、民主主義というものであり、それが民主主義の学校制度の普及となる。要するにたくさんの大中小の統治者を育てることだ。地域を活性化し地方経済を復興し、国の崩壊的危機を乗り切るのは最底辺の民衆の自己統治能力にかかっている。民主主義と言うのは既成のものではない。常に新しく作り出され、現場で、教育され訓練される必要がある。
国家の危機は民衆の肩にかかっており、その危機打開の方式は民衆の生活の中にあり、その能力の発揮による以外にない。特定のリーダーのインスピレーションにではない。橋下はそういう民主主義のイメージをもっているだろうか。
持っていない。橋下氏の根底には、前衛主義がある。一番かしこいのはオレだ、おれについてこい、という発想だ。前衛主義は、左翼にも右翼にも、保守にも中庸派にもどこにも生えている一種の病だ。その前衛党派が権力を握った時、恐るべきことが起こる。
カラマーゾフの大審問官物語が始まる。ヒットラーはもとより中国や旧ソ連のスターリン主義者からカダフィーに至る連中の物語だ。その時の政治や社会の病根を取り上げ大衆を扇動して極端な虚偽イメージの解決策をでっちあげて権力を握る。橋下のやっていることはファシズムと近似する。そして、政治機構をいじって専横体制を敷いても市民の福祉をはぎ取り自由な教育環境をゆがめ、大企業に迎合するようでは、早晩カダフィー的最後が待つばかりだ。
しかし、問題は次の通りだ。
橋下に対決する陣営には何も新しいものはないということだ。旧態依然たる沈滞した政治を守旧するという構えだ。大阪を守るといいながら既得権を防衛しようという魂胆だ。
そして、最後に、恐るべきなのは、この混乱の中から出てきた雑誌「新潮」45だ。その内容は極めて悪質だ。同和の素性を明かすという卑劣な手法で橋下を攻撃しようとしている。この様な身分差別をあおり根拠なき偏見を利用する陋劣な政治手法は、結局橋下と同じであって、我こそ正しい家柄であり、正統だ、お前らはクズだというキャンペーンを張って政治的権威を建てようとするものである。
反橋下の勢力もこの同和攻撃には一致して反撃をしなければ選挙に勝っても反動勢力としての自己を見出すであろう。
同和であるという事をこれほど露骨に表示してこれを攻撃材料に使ったのは戦前戦後を通じてこの「新潮」が初めてであろう。部落解放運動はこれを座視傍観するべきであろうか。「新潮」がつぶれるか、解放運動がつぶれるか、それくらいの糾弾闘争が巻き起こってもいい事件だ。この「新潮」一誌によって、社会の片隅に陰にこもっていた差別感情は沸騰するがごとく表出し対象被差別の民衆に襲いかかるであろう。
今回の選挙をめぐる大阪の混乱は、日本人民には一つも前進的な要素もなく、むしろ全体として反動的な結果を広範囲に及ぼすことになるであろう。
ただ一つ良い点を取り上げるなら、橋下も平松も両方とも脱原発の方向性を打ち出している点だ。この一点は絶対曲げないでもらいたい。
この混乱の中からプロレタリア民主主義の旗を翻して新しい青年たちが登場することを望む。
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