暗殺
News & Letters/184
NHK大河ドラマで吉田東洋が暗殺された。
ドラマでは吉田東洋は余りよく描かれていない。
しかし、藩政革新派の中心人物であった吉田東洋が倒れたことは土佐にとって甚大な被害であった。
土佐勤皇党の過激な行動は時代の要請にあったものであり、犠牲を省みない実践行動には敬意を表するものであるが、東洋暗殺だけは良くなかった。
しかも、土佐勤皇党のこの行動は、守旧派の最上級武士らと組んだものであり、それら姦物らの復権を許したうえ、自らの解党四散を招き、幕末維新における土佐藩の決起を大きく遅らせる結果をもたらしたのであった。
土佐勤皇党は、郷士・庄屋層を主とするものであるが、この連中の元は土佐に起こった天保の庄屋連盟に発している。
この庄屋連盟の趣旨は、武家階級を排し、天皇と民衆が直結するという天民思想をもっており、武士は討ち果たしてもよいという極めて急進的反封建の革命思想を持っていたのであった。
その意味では、改革派の吉田東洋らの公武合体路線のはるか先を走る思想ではあったが、現実政治の中で次々と藩政改革を進める吉田東洋らの歩調とはとても合致しないものであった。
だからといって焦燥に駆られて大人物をテロってしまうことはなかったであろう。
結局、土佐藩の維新での活躍は東洋の弟子たち(後藤象二郎、福岡孝弟、板垣退助、岩崎弥太郎ら)と坂本龍馬など土佐勤皇党の残党によって成し遂げられたことを思えば、帯屋町での東洋暗殺は返す返すも残念なことであった。
近親憎悪のような内ゲバは百害あって一利なしだ。
勤皇でも国学系統の勤皇は問題がある。
土佐勤皇党の領袖武市半平太は国学系統であって、国学の書物を懐に入れていたという。
土佐南学系統の天皇観と国学のそれとには、大きな相違があった。
本居宣長は、土佐南学の天皇観を批判している。
すなわち、土佐南学(谷秦山の系統)は神代の神、天皇を人間と見なした。これに対して国学の大家は神代のことを人代の理屈で見るのはけしからぬ、それは漢意(からごころ)であると非難した。
一方では天皇を神仙視し、他方では賤民への激しい禁忌けがれを強調する国学系統の思想と、神や天皇は人間であると喝破し、穢多も同じ日本人であるとした土佐南学とは土台から大きな懸隔があったのである。
坂本龍馬は儒学や国学など学問の方は余り進んで居ず、勝海舟や佐久間象山など洋学系統の思想を受けていた。これら洋学派はもともと天皇神仙思想や賤民蔑視思想とは無縁であった。
吉田松陰や、佐久間象山らは賤民解放の思想を抱いていた。
土佐の国学系統の下級武士たちは維新後に「油取り一揆」という反動的な騒動を起こし、賤民解放令反対に立ち上がったのはむべなるかなである。
国学系統の矯激な思想による暗殺に倒れた吉田東洋は、古い身分格式に手を入れ、農民漁民を主体とする日本で最初の近代的な兵制を土佐に布いた。土佐人はもっとこの人を評価しなければなるまい。
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