漁村部落
News & Letters/161
大坂市立大学の人権問題研究所の先生方が大勢、東洋町に視察に参られました。
いろいろ啓発されることがありました。
高知県東部は被差別部落の密集地であり、東洋町まで繋がっています。
昭和33年に大坂市立大学の山本登先生がその中の一つ吉良川町の精密な調査をしていて、その成果が先生の著作に掲載されていました。
私の小さい頃のことでした。その調査の結果わかったことは、その地域は「まさに文化果つる地」であるということでした。あれから半世紀以上が立ちました。都市の多くの部落とは違ってその原型はそのまま残されていました。山本教授のその著作では、新聞購読とか、電話、ラジオ保有、みそ、醤油、砂糖の消費など生活の多面に亘って詳細な調査がなされ、他の被差別部落と比較されていました。
ここで特徴的なのは、すぐに見て分かる環境面の状況について何も記されていないことです。
一般的に漁村というのは、港や浜辺などの近くに密集していて、その点農村とは相当に相違している。
室戸近辺でも、被差別部落と言わずどこの漁村も狭隘で急峻な土地にへばりつくように密集住宅を形成している。この環境の悪さは容易に解消しないであろう。室戸岬町の旧国道の北側の傾斜地の密集住宅では道も極めて狭隘であり、死人が出ても棺桶も出せないような状況である。ここは被差別部落ではない漁業の町である。
室戸の中心街の商店は、室津川の土手の上に密集して形成されている。大水が出た時には家のすぐそばまで満水状態となっている。土手の上に、と書いたが、実際には土手は築かれていず、家の軒下に即、川が流れているのである。
このように室戸方面高知県東部地方では、漁業の町筋、漁業の村落は、どこも環境の整備が放置されてきた。
だから、かつての山本教授は赤貧洗うが如き吉良川の被差別部落を精密に調査しても、住環境については、一言も言及するところがなかったのである。なぜなら、被差別部落の住環境は、悪いには悪いが周辺集落に比して、さほど差があるほどではないと考えたのであろう。半世紀前、その中にあった私の生家の周辺はほとんど家が無く、春は菜の花に囲まれ、夏はイモ畑や甘藷の林が生い茂り、冬は麦畑の牧歌的な雰囲気であった。
私は毎日トンボを追い、バッタ(ダマという)を追い求め、川や海に入って少年時代の毎日を暮らしていた。貧しかったが、自由の天地であった。
学者の目には文化果つる地と写ったかも知れないが、夜は本や漫画を読み、親や祖母から昔物語を聞いて、極めて文化的な生活を満喫していたのであった。
今は、この地域の家々は、立派な装いを凝らし大きな建物になった。そのことでむしろ、狭隘感がつのり、環境が悪い印象が強くなってしまった。
その傾向は他の漁村と同様であり、漁村の住環境の改善は1人被差別部落だけではなく全村落の問題なのである。
私は高校生の時から、大阪に出て都会(西区方面)の貧民窟に住んでいたが、それらはいつの間にか一掃されていた。大坂の被差別部落も最近ではすっかり様変わりをして昔のイメージで訪れても一見しただけでは、皆目分からなくなっている。
これでも被差別部落か、他地区よりもよくなっているからとまどってしまう。
私は故郷を愛し被差別部落を誇りに思っている。
この環境が都市部落と同じように解体され訳が分からなくなることをむしろ恐れる。
自分らの部落がよくなるには、同時に周辺の村落もよくならねばならない。カールマルクスが共産党宣言で喝破したように、自分たちの発展が他の人々の発展の条件となるような、そのような発展でなければならない。他の者の予算を先取りして、他の者が苦しんでいるのを横目にしながら、自らだけの幸福を追求してはならない。むしろ、他の者のために自らの幸せを犠牲にするぐらいの精神を養わねばならない。部落民への不当な差別を打破し、解放運動を推進するというのは、そういう精神のことである。
半世紀前、社会学のエライ学者には、赤貧洗うが如き環境で、父母もいない澤山保太郎少年の、その幸福な日々を想像することも出来なかったと思われる。
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